HISASHI IKEGAMI

アメリカへ来て35カ国もの違う人種の方々と共に働き、言葉も食文化も習慣も違う人々との生活の中で相手の考えや行動を尊重する考え方に変わりました

アメリカの吉野家の社長に抜擢された経緯を教えて下さい。

当時の社長が役員に対し、勤務するなら台湾とアメリカどちらが良いか聞いた時、アメリカと答えたのは私だけだったようです。(笑)
とはいえ、私にとっては『どんな仕事をするか』が重要であり、『どこでするか』は、あまり気にならなかったのが本音です。どこにいても自分がしたい仕事が出来る環境であれば、と。
人が仕事を選ぶのではなく、仕事に人が選ばれるのだ、と思っています。
自分のやりたい仕事を選ぶ事も重要ですが、上手くいかなければ結局仕事に外されてしまうし、仕事から選ばれるようになるには常にその事を考え、その仕事をするのに相応しい人間になる事が必要です。

初めにアメリカに勤務がきまったのが1989年との事ですが、その頃どのようなミッションでアメリカに渡ったのでしょうか?

店舗数の拡大です。当時店舗があったのはロサンゼルスのみで、30店舗位でした。初めの赴任の7年の間に店舗を100店舗近くオープンし、ロサンゼルス以外にも展開を始めました。店舗数を増やすという使命を果たし、日本に帰国しました。

日本に帰国され、2007年に再びアメリカに渡って次なる目標は何だったのでしょうか?

日本に戻り企画本部を担当していたのですが、その頃BSE問題や株式上場など、様々な出来事があり、それらを乗り越えてホールディング体制にした事が日本での最後の大きな仕事でした。それが終了した頃、次のミッションは、と考えた時にアメリカに再度目を向けました。アメリカでは店舗数が減り、拡大どころか縮小していた頃でした。そして、アメリカでの店舗拡大を再度試みようと思い再びアメリカの地を踏みました。

日本で大きな任務を果たし、次なる使命としてアメリカでの店舗数拡大を図る上で、日本とアメリカでは意識を変えて仕事を進めたのでしょうか?

我々が海外展開していく上で共通した考え方は『吉野家のDNAを継承する事』としています。しかしメニューや形態などは、現地の素材や人の好みにあったものに変化する必要があると思っています。その上でホスピタリティや、仕事に対する責任感、提供するものへの想いなどの『吉野家イズム』はみんな共通して頂いていて欲しいと願っています。

その『吉野家イズム』を継承するために、日本から経営陣をアメリカに送っているのでしょうか?

アメリカに限らず、(現在アメリカ・アジアで650店舗くらい展開しています。)全世界共通するものがありますが、グローバルな社会になってきていて、今は日本人じゃなきゃ継承出来ないという事はありません。実際に現在アメリカはアメリカ人が社長を務めています。もちろん、初めは日本人が行って色々と曲げたくない部分は伝えて、という考えでしたが、これからはそれでは成り立ちません。

アメリカへ来て様々な違いがあると思いますがご自身の考え方が一番変化した事は何ですか?

やはり人それぞれの考え方の違いを許容出来るようになった事でしょうか。日本にいると同じ習慣の中にいた人達との仕事で同じ発想が多く、とてもラクな部分も多かったんだな、という事実に気がつきました。例えば日常生活でも変わった事をしている人間は日本だと白い目で見られる事もありますが、アメリカへ来て35カ国もの違う人種の方々と共に働き、言葉も食文化も習慣も違う人々との生活の中で相手の考えや行動を尊重する考え方に変わりました。ただ、自分の中のぶれてはいけない軸はしっかりと。

違う文化の中で、様々な考え方が存在するアメリカで吉野家ブランドを展開するにあたり、『変えてはいけないもの』『変えなくてはならないもの』の境界線はどのようにひいているのでしょうか?

言葉で表すのは難しいですね。22年間吉野家の社長を務められた安部会長が9月に退任されましたが、その間我々取締役のメンバーはほとんど変わりませんでした。そういった事もあって、阿吽の呼吸というか、あえて言葉にしなくても理解し合えて『吉野家イズム』を共有出来ていたんだと思います。

日本では行なっていない、アメリカならではの企画はどのようなものがあったのでしょうか?

色々やりましたが悉く上手くいきませんでした。(笑)新形態のお店を始めたり、新しいメニューを考えたり。
やはり日本からきて、一つの事だけをずっとやっていた人間が新しい土地で急に何かを提案してもダメなんです。やはり日本から来て成功されている方々は日本に基盤があって成功されていて、それをアメリカで展開するとか、少しアレンジして提供するとか、そういう人がほとんどです。いきなり来て今までやった事もない新しいものを作ろうと思ったって難しいわけです。

では、やはり一番売れているのは牛丼なんですか?

ずっとそうだったんですが最近少し変わってきていて、チキンが売上げを伸ばしています。とはいえ目新しい商品ではなく、やはりずっと長年続けていたものですね。牛肉は供給が追いつかず今後値段も上昇する一方だと思います。

アメリカで展開したもの(商品や形態)を日本に逆輸入したケースもあるのでしょうか?

アメリカの店舗をそのまま日本に持ってきた店舗や少し日本用にアレンジした店舗も開けましたが失敗でした。しかしアジアで展開している店舗のほとんどはアメリカ式なので、アメリカのやり方が悪いわけではなく、日本には合わないんですね。日本では既に吉野家は知名度も定着しているので、アメリカ式のオシャレな店舗を用意してもそんな需要は無いんです。日本式のカウンターの吉野家は日本だけなんです。

アメリカでの経営の仕方など、実践以外ではどのように学んだのですか?

幸い周りにお手本となる方々が沢山いたので色々と身に付きました。自分の勘や経験だけに頼っていると正しい判断なのか分からなくなる時もありますから。手段が目的化してしまう事は避けたいと常に思っていたので、客観的に自分の仕事を見てみる事が大切だと思います。例えば採用に関していうと、忙しくて人材が欲しくて募集したのに気がつくと雇う事だけが目的になってしまって、とにかく雇う事だけに意識が集中してしまう。一生懸命やれば良いというものでもなく、誰もが誤った選択をする事もあるけど、その間違いに気がつけるか、客観視出来るかという点も重要です。一生懸命やればやるほど『木を見て森を見ず』という状況になりかねません。
あとは本をとにかく沢山読みました。とはいってもいわゆる"How to本"は読みません。あれこそ『森』についてではなく『木』についての話なので、よほど自分が知識の無い分野ではに役に立つかもしれませんが、やはり手段は自分で見つけ出したいと思っています。その人や仕事によって手段や方法はそれぞれなので、そのアイデア自体を学ぶのではなく、どのようにアイデアを産み、育むか、考え方を参考に出来るような本を読んでいます。小説などから経営のヒントを貰う事も多々あります。

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